突然ですが、しまい込んでいたスニーカーやバッグを久しぶりに使ってみると、見た目はきれいなのにソールがバラバラになったりカバンの表面にヒビが入ったりしてがっかりしたことはないでしょうか。
これらは、水分と素材が化学反応して起きる「加水分解」が原因です。
いろいろ調べてみると難しい化学式が出てくることがありますが、簡単に言うと水分が素材の構造を変化させてボロボロにしてしまうのが加水分解です。
加水分解は起きてしまうと元の物質とは違う構造に変化してしまうため、元に戻せなくなってしまいます。
ですので、加水分解が起きないようにすることがとても重要です。
そこで、ここではなぜ物質と水が反応して分解が起きてしまうのか、どこよりもわかりやすくお伝えします。
加水分解を防ぐ方法についてもお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。
加水分解とは
加水分解とは物質と物質がくっついて水分に反応しやすい性質を持ったものが水と反応して分解される現象です。
物質(厳密には分子)同士が結合した時に水に反応しやすい性質を持つことがあります。
水に反応すると分子のつながりが断ち切られ別々に分かれてしまいます。
すると、結合して安定していたものが、加水分解により2つの物質として分解され状態が変化して物がボロボロになったりするのです。
素材によりますが、表面がベタベタしている場合は加水分解を起こしている可能性が高いです。
これだけでは伝わりにくいと思いますので、次で詳しく見ていきましょう。
加水分解のメカニズム
ここからは加水分解のメカニズムをなるべく簡単に噛み砕いて解説していきます。
重要な点は物質と物質が水分によって崩れてしまうという点です。
この内容だけは変わらないので、そこをイメージしながら読んでいただくと理解しやすいと思います。
化学結合した物が水と反応して分解する
化学結合した物とは、とても小さな物質(厳密には分子)と物質が結合した物のことです。
身近にあるプラスチックやゴムなどあらゆるものは分子と分子が大量に合わさってできた物です。
この分子が大量に結合してできたものを「高分子化合物」といいます。
加水分解は高分子化合物が、水と反応しやすい性質を持っている場合に起こります。
石油に火を付けると酸素と反応して火がつきますが、同じようにある高分子化合物に水を合わせると分解します。
これらは持っている性質の違いによって、反応が変わっただけです。
つまり、高分子化合物の性質により水と反応して起こる分解反応のことを加水分解と呼びます。
では、なぜ水に反応しやすい性質を持ったのか。
この高分子化合物の結合の仕方に違いがあり、その種類の中に加水分解しやすい性質のものがあります。
どのような結合の仕方が加水分解しやすいのか次で説明していきます。
結合の仕方によって水に反応しやすい性質になる
まず、高分子化合物の中で加水分解しやすいのはポリウレタンです。
伸び縮みしやすく、加工しやすいためさまざまなものに利用されている素材です。
自動車の部品や塗料、水着などにも使われている素材です。
このポリウレタンの中には、水に弱く劣化しやすい性質を持ったものがあります。
それは「エステル結合」という結びつきをもったポリウレタンです。
分子の結びつき方によって、水に弱く結合が切れやすい性質があるのです。
これらは用途によって使い分けられており、ウレタンの中でも水に強い性質のものもあります。
このように結合の仕方によって同じポリウレタンでも性質が変わります。
この性質によって水に弱いものが生まれ、水と合わさったときに起こる反応のことを加水分解と呼ぶのです。
加水分解を防ぐ方法
加水分解は性質により起きてしまうことなので完全に防ぐことは難しいですが、原因を知ることで進行を遅らせることができます。
身近に起きる加水分解を例にして防ぐ方法を説明します。
水分に触れさせない
加水分解しやすいものは水に触れさせないことが一番です。
ここでは、ポリウレタンがソールに使用されているスニーカーを例に説明していきます。
スニーカーに水が付いた場合は拭き取り、乾燥させてからしまうこと。
水分は空気中にも含まれているので、湿気を防ぐ除湿剤を利用すると状態を良好に保ちやすくなります。
新品のスニーカーに丸められた紙や除湿剤が入っていることがありますが、それは湿気を吸収し、カビや加水分解を防ぐためです。
長時間湿気にさらされると、加水分解が起こりやすくなります。
保管せずに履くことも対策のひとつです。
熱を加えない
熱によっても加水分解は進行することがあります。
長時間高温で湿度が高い場所にさらされると、加水分解が起こり劣化してしまいます。
古い車のダッシュボードやスイッチ類がベタベタしてしまう話がありますが、あれは長年にわたり高温多湿の環境にさらされた樹脂パーツが加水分解を起こし、劣化してしまったのです。
高温になる場所を避けることも重要です。
加水分解したものは元通りにはならない
加水分解は元々結合して安定していた物が分解されてしまうため元通りにはなりません。
分子が結びついて安定していたものが、水と反応し別々の2つの物質に分かれてしまいます。
こうなってしまっては、元通りにすることはできません。
なので、加水分解を起こした物はあきらめて買い替えるか修理に出すしかありません。
加水分解を起こさないようにすることが重要です。
身近な加水分解をおこしやすいもの
種類 | 使用されている部分 |
合皮の靴 | 甲やかかとの生地 |
合皮のカバン | 生地 |
合皮のソファー | カバー |
スニーカー | ソール |
今まで例に挙げてきたスニーカーの他、合皮で作られた靴やカバン、ソファーも加水分解しやすいです。
合皮とは繊維に化学的なコーティングをして柔軟性と天然の革の質感を持たせた素材です。
特にカバンは、外側は本革でも内側が合皮というパターンがあります。
外側の本革は加水分解を起こさない素材ですが、内側の合皮のみ加水分解を起こすという盲点もあります。
さらに、合皮の中にも種類があり、加水分解しやすいのはポリウレタンコーティングされているものです。
ポリウレタンの伸び縮みしやすい性質を繊維に与えることで、元々の素材になかった風合いを作り出しています。
もし、カバンを購入する場合は合皮が使われていないかチェックしましょう。
※合皮について詳しく知りたい人はこちらの記事を参考にしてみてください。
>> 合皮は劣化が早い!購入前に知っておきたい合皮と本革の特徴とは?
まとめ
加水分解は高温で湿度が高いところで保管し続けると起きやすいため、保存状態に気を付けましょう。
ただ、加水分解は起きてしまうと修理や買い替える以外に対策がないので、起こらないようにすることが重要です。
もし、合皮が使用された商品を購入する予定がある場合、本革のみが使用されたものに変更すれば加水分解が起こることがないためおすすめです。
今一度、身の回りにある物の保管方法を見直してみてはいかがでしょうか。